校庭の機関車、工場の機関車 [昔鉄(60年代の国鉄・私鉄)]

 畏友のhigeraman氏からまたまた写真が送られてきた。
 一見して「あっ、またダマテンでタイかビルマだかに遊びに行きやがったな?」と…。
 いや、それほどに南国っぽい写真だったのですよ。
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 放置されっぱなしのような機関車。ナンバーは1285…って、どう見てもC12でしょ? ナンバープレートのCの部分は欠けてるけど…。
 生い茂った木々、メインロッドに塗られた赤…なんだか太平洋戦争中に外地に送られたC12のように見えて…でもC12ってタイとかビルマに送られてたっけ?
 添付写真を見てからメール本文を読む私の悪い癖。なんとhigeraman氏がリタイア後に勤めている第二の職場、その近く、埼玉県和光市の小学校の校庭に保存されている機関車…とのことです。
 C1285…どっかで見た気がする…。仔細に写真を拡大してみると、
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 ナンバープレートやロッドの赤や、タイヤ周りの白いペイントもさることながら、見慣れたC12とはどこか違う…ランプが抜かれた前照灯と、煙突の間にあるのは何だ? ひょっとして「鐘」?
 そうだ、こいつだ。しかしなんで日本国内にある蒸気機関車に「鐘」がついているんだ?
 はたと気がついた。遠い昔、前照灯と煙突の間に鐘をぶらさげた機関車を見たことがある。
 
 …こんな思考回路なんです、私って。ここに至りようやく「C1285」の履歴を調べてみる。すると…やっぱりね。「C1285」は国鉄大宮工場に所属して活躍していた機関車なのでした。

 国鉄時代、全国各地にあった「工場」。機関区などの現業機関でなく、従って本線に出てくることはないけれど、もっぱら「工場」の中だけで、入換などに使われていた機関車がありました。昭和43年の配置表を見ると、その数10両。そのほとんどがC12で、大宮工場にはC1285の他、C1229とC11322が、工場内入替専用機関車として配置されていたのです。
 工場内専用機ですから、あんまり人目につくような場所に出てくることもなく、もっぱら工場の中の狭いエリアで運用されていた機関車…なんですが、私は国鉄大宮工場の中を見せてもらったことがあるんです。昭和39年の暮…だったと思うのですが、当時入り浸っていた国鉄本社の機関車課、あるいは東鉄の運転課…のどなたかの口利きで、大宮工場の見学が叶うことになりました。
 当ブログでもさんざん書いているとおり、当時は機関区や電車区などの現業機関は、ふらっと訪ねてノートや書式に記入すれば、見学が許されていたのですが、工場ばかりはどうしていいかわからない。今のように「何とかフェスタ」なんてイベントもありませんし…ね。
 このときは大宮工場の中に保存(放置?)されていた或る機関車を是非とも近くで見たく、見学のお願いをしたのでしたが…その話はまたいずれ…として、首尾よく大宮工場に潜入を果たすことができたのでした。

 本題に戻ります。私とC1285との出会いはこんな感じ。
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 業務棟に挟まれた狭いエリアで一休みしていたC1285…。

 煙室近くを拡大してみます。前照灯と煙突の間に、なにやらあるように見えるのですが…。
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 なにしろ狭いエリアで正面からしか写真を撮ることができませんでした。大宮工場所属の僚機、C1229ではどうでしょうか?
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アップにすると、なんとなく「鐘」らしきものの存在が見えてきました。
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 もう一両、こちらはC11322。
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 前照灯と煙突の間に、「鐘」があるのがわかりますね。
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 あいまいな記憶がだんだん鮮明になって来ました。カランカランと鐘の音を響かせながら、工場の中の入換に励む蒸気機関車…。工場の狭いエリアで、野太い蒸気機関車の汽笛を鳴らしていたんでは、やかましくて仕方なかったでしょう。その意味でか「鐘」は工場所属機のアイデンティティだったのではないでしょうか?

 日本全国いたるところにSLの保存機はあるけれど、「鐘」を装備しているものとなると、おそらく和光市のC1285が唯一の存在なのでは…?

追記:12号線さんのご指摘で、C1229も大宮市で保存されていることがわかりました。またC11322も鴻巣市で保存されている由。当時大宮工場に所属していた「鐘つき」の蒸気機関車は、3両ともいまもその姿を見ることができるようです。そのこと自体は大いに嬉しいのですが…。
 改めて昔の写真と比べてみると、和光市のC1285の鐘は綺麗に磨き立てられている。

 higeraman氏のメールを続けます。
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「しばらく機関車を見ていると、自転車に乗ってやってきたオジサン(失礼!)が、運転台回りのブルーシートを剥いで、雨の中、なにやら作業をはじめました。見れば公道に面して、オジサンの手作りの案内板が掲示されていました」
 
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 ブルーシートを剥がされたキャブの回りは、赤錆が浮いていますが、煙突や砂箱は雨にぬれて艶やかに輝いているように見えます。

 全国各地で見られるこうした保存機。展示するまでは良くても、鉄製の車両は年月がたてば錆が浮くのはもちろんのこと、どんどん自然劣化していきます。部品を持ち去る心無い輩への対策など、同じ状態にずっと維持するためだけでも、馬鹿にできないコストがかかることはことは素人考えでも容易に想像がつきます。
 そうしたコストを、個別、小学校のようなレベルで調達するのは、こうした時勢では難事に違いありません。そうしたことから、「展示したまでは良かったけれど」あとは荒廃にまかすだけ、という保存車両が数多くある…という現状につながっているのだと思います。ハコ物行政と似たり寄ったりですが、維持するためのコストを考えずにモノを欲しがる、建築物はそうはいきませんが、所詮古い蒸気機関車、メンテナンスのコストが調達できないのならあとはほっぽらかしということではないでしょうか。荒廃にまかす亡霊のような蒸気機関車では、「子供の夢」どころの話ではありますまいに…。
 
 そして、ほっぽらかしの「公」に代わり、心ある個人レベルのボランティアが「荒廃」を辛うじて食い止めているということなのかもしれません。「C1285蒸気機関車再生の会」がどういった組織で、どのような活動をなさっているのか、まったく知らないままではありますが、私個人がかつて出会った機関車の保存にかける熱意に敬意と感謝を捧げたいと思います。

 あ、忘れてた! higeraman氏、いつもありがとう。ネタに詰まった時はよろしくネ!
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コメント 6

12号線

はじめまして。この小学校には半年ほどですが在籍しておりました。
当時はそれほど荒廃しておらず、この車両を間近に見られることを楽しみに登校する毎日でした。
URLは町新聞での紹介記事です。

C1229ですが、こちらも静態保存機としてさいたま市にあります。
大宮市のころ、今度は勤め人として市民会館近くの地へ赴きましたが、85号機よりも状態良く鎮座しておりました。
by 12号線 (2011-11-06 07:18) 

Cedar

結局、機械ものはモニュメントとは違うのです。
いったい何両の貴重な車輌が、客寄せの思いつきで保存→はじめだけ人気→費用削減→人気低下→さらに荒廃→結局スクラップという運命をたどったことか。
安易な保存なら、しないほうがいいです。この国は結局「公」には管理能力がありません。
by Cedar (2011-11-06 08:43) 

maipenrai

12号線さん
 はじめまして。校庭にSLがある小学校のご出身とは羨ましいです。さらにご指摘ありがとうございました。本文に追記させていただきました。
 また、調べたところ、C11322も鴻巣で静態保存されており、当時の大宮工場の所属機はすべていまも見ることができると知りました。
 今後とも宜しくおねがいいたします。

Cedarさん
 私の家からそう遠くない公園に、都電7000形(更改後)が保存されていますが、正直、見に行く勇気がありません(笑)。車両の保存が、当初の一時的な出費に終わらず(それが「無償供与」だったりするから飛びつくんでしょうが)、恒常的なメインテナンス費用がずっと発生し続けることに、そろそろ気づいてもらいたいものですね。…にしても、だからといって歴史的に貴重な車両まで、片っぱしから重機のエサにされてしまうのも困るんですが…。

seiさん
manamanaさん
nexus6さん
フジトモさん
ほりけんさん
あおたけさん
hanamuraさん
 niceありがとうございます。
by maipenrai (2011-11-06 11:42) 

maipenrai

よしくんさん
湘南ライナーさん
 niceありがとうございます。
by maipenrai (2011-11-06 21:14) 

ひもブレーキ

和光市のC12は何度か見に行ってますが、荒廃が気になっていました。
今修復作業が行われているとの嬉しい情報です。あと蛇足ですが、
C12は数年前までベトナムで動いてました。あと、インドネシアにも
行ってますね。
by ひもブレーキ (2011-11-07 19:51) 

maipenrai

ひもブレーキさん
 ベトナムやインドネシアにも! まさに日本陸軍の往くところC12あり、ですね(ビルマはどうだったんでしょう?)。
 東南アジアでは泰緬鉄道のC56があまりにも有名ですが、同じ簡易線規格でも足の短い(水や燃料が積めない)C12が、どんな使われ方をしていたのか、興味はつきません。

gardenwalkerさん
シュウチャンさん
しまりすさん
 niceありがとうございます。
by maipenrai (2011-11-07 20:06) 

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